「テロメア」と不老不死
「テロメア再生医療のカリナ・ミルザか?!」
個人的に今回一番気になったのはこのセリフです。
「テロメア」とは、染色体の末端にある構造のことなのですが、この部分が細胞の老化や不死化に大きく関連していると言われています。
すなわち、オトナたちが不老不死を獲得した背景も、この「テロメア」にあるのではないかと考えられるのです。
またそればかりか、「テロメア」は早老症や生殖細胞といった『ダリフラ』の設定の根幹とも呼べるものに関連しており、「テロメア」こそが『ダリフラ』世界を形作る科学的背景の根底にあるではないかと考えられるのです。
そこで今回はこの「テロメア」と『ダリフラ』との関連を中心に考察していきたいと思います。
テロメアとは何か?
テロメアとは、染色体の末端にある構造のことで、染色体を保護する役割を果たしています。
よく言われるたとえに、テロメアは靴紐の先っぽにまかれたビニールのようなものだというものがあります。
イメージとしてはとてもわかりやすいのですが、実際のテロメアはそれ以上に細胞の老化や不死化に大きく関わっていると言われています。
一般に、細胞分裂のたびにその細胞内の染色体のテロメアは短くなり、細胞は老化していくと言われています。
そして細胞分裂には通常限度があり、何度も分裂していくと細胞は老化し、死んでゆきます。
つまり端的に言えば、テロメアが短くなると老化するということになります。
それならば、テロメアが短くなるのを防げば細胞は老化せず、ひいては細胞の集合体である人間の老化も防げる、つまり不老不死になれるのではないか?というのが「テロメアが不老不死につながるのではないか?」という発想の大元です。
しかしながら、もちろん話はそう単純ではないわけです。
テロメアを再生できれば不老不死になれるのか?
テロメアが短くなると細胞が老化するならば、テロメアが短くなるのを防ぐ=再生させられれば不老不死になれるのか?というと、もちろんそうとは限りません。
理由は大きくわけて2つあります。
- テロメアが短縮は細胞老化の十分条件であって必要条件とは限らないから
- 細胞の老化=個体の老化とは限らないから
1. テロメアが短縮は細胞老化の十分条件であって必要条件とは限らないから
"1." は要するに細胞老化の原因は、テロメアが短くなること以外にもあるということです。
例えば、DNAに傷害を与えたり、酸化ストレスが加わったりすると、テロメアが短くならなくても細胞を老化させることができます。
細胞の老化は、このようなテロメアとは関係ない環境因子により影響される「ストレス老化」によっても引き起こされるのです。
2. 細胞が老化=個体の老化とは限らないから
"2." は、要するに細胞が老化しなくなったからといって個体(体全体)が老化しなくなるわけではないということです。
例えば、1つ1つの細胞についてならば、テロメアの短縮が抑制された細胞はもうすでに現実に存在します。
その細胞とはがん細胞です。
がん細胞はテロメアの短縮が抑制された不老不死の細胞なわけですが、不老不死だからこそ細胞が過剰に増殖し、臓器を機能不全に陥らせたり、 生体を急速に消耗させたりして人間を死に至らしめてしまうのです。
このように、細胞を不死化したからといって、それが即個体(体全体)の不老不死化につながるとは限りません。
もしもテロメアを利用して不老不死を実現するのならば、主に以上のような問題を解決しなければいけないことになります。
ただこれは逆に捉えれば、以上のような問題を解決できれば、テロメアの伸縮を操ることによって不老不死の実現も可能であるということにもなります。
では『ダリフラ』における不老不死はいったいどうやって実現したのでしょう?
テロメアとオトナ
『ダリフラ』世界ではどうやって不老不死を実現したのか?
そもそも『ダリフラ』における「不老不死」にテロメアが関係していると明確に決まったわけではないのですが、わざわざカリナ・ミルザを「テロメア再生医療」の研究者としたことを考えると、やはりテロメアが科学的背景にあると考えるのが妥当だと考えられます。
では『ダリフラ』世界ではどうやってテロメアによる不老不死を実現したのでしょう?
これははっきり言ってわかりません。
より厳密に言うならば、『ダリフラ』における「不老不死」のメカニズムを現実の科学で説明するのは不可能だろうということです。
その理由にはまず「マグマエネルギー」という架空の物質が「不老不死」に関わっているということが挙げられます。
しかし逆に考えれば、「マグマエネルギー」によって現実では解明できていないテロメアによる不老不死のメカニズムを解明できれば、テロメア再生によって「不老不死」を実現することも可能だということになります。
例えば、「マグマエネルギー」にテロメア再生を個体を維持しながら実現させる何かしらの物質や機構が含まれており、それによって「不老不死」が実現したとすれば筋は通ります。
すなわち『ダリフラ』は、現実の科学では不可能であるテロメアによる「不老不死」を「マグマエネルギー」という創作物で可能にしたSF(サイエンスフィクション)だと言えるでしょう。
ただ、『ダリフラ』で「テロメア」を持ち出した理由はこれだけではないと考えられます。
「近未来」に説得力をもたせる
まず、『ダリフラ』が「テロメア」をもちだすことは、『ダリフラ』世界が「近未来」であるということに説得力をもたせる効果があると考えられます。
テロメア研究は、今、この現実において非常に注目を浴びている分野です。
例えば2009年には、テロメアの配列をつきとめたブラックバーン(Elizabeth H. Blackburn,60)とショスタク(Jack W. Szostak,56)、テロメア伸長酵素であるテロメラーゼを発見したグライダー(Carol W. Greider,48)がノーベル生理学・医学賞を受賞しました*1。
また記憶に新しいところでは、宇宙に長期滞在した宇宙飛行士と地球上にいたその宇宙飛行士の双子の兄弟とでテロメアの長さを比べたところ宇宙飛行士の方がテロメアが長くなっていたというニュース*2もありましたし、今年の4月にはヒトテロメラーゼ酵素の構造について報告する論文が "nature" 誌に掲載されました*3。
このように、テロメア研究が現在進行形の研究であることは、特に今回明らかになったような2036年や2042年といった「近未来」を描く『ダリフラ』に説得力をもたせる効果があると考えられます。
しかし『ダリフラ』がテロメアをもちだした理由はこれ以外にもまだあると思われるのです。
テロメアとコドモ
コドモたちは早老症?
テロメアは、オトナの不老不死だけではなく、コドモの老化現象にも関連していると考えられます。
『ダリフラ』においては、090の髪が白一色になっていたり、ミクに白髪が生えていたり、フトシが食欲不振に陥ったりと、コドモたちに老化現象のようなものが見られます。
これらの老化現象の原因は、主に早老症やコドモたちがクローンであることに由来していると考えられるのですが、そのどちらの問題にもテロメアが関連していると言われています。
ウェルナー症候群
例えば、偶然か意図的かは判断しかねますが、フランクス博士の本名「ヴェルナー」と英語表記が同じ「ウェルナー(Werner)」の名前を冠した「ウェルナー症候群」という早老症があります。
ウェルナー症候群は、低身長や低体重、白髪や両側白内障などの老化現象が若くして発現する疾患なのですが、ウェルナー症候群の患者はテロメアが短くなっていたことが明らかになっています。
ウェルナー症候群の原因はWRNという遺伝子の異常だと特定されたのですが、さらにそのWRN遺伝子はテロメア制御に重要であることがわかってきました。
コドモたちの早老症と思われる症状はウェルナー症候群の症状とは少し異なるのですが、他の多くの早老症でもテロメアとの関連が指摘されているため、コドモたちの老化現象にはテロメアが関連していると言ってよいと思われます。
クローン
またコドモたちの老化現象は、コドモたちがクローンであることに由来するのかもしれません。
『ダリフラ』ではオトナたちがほとんど生殖機能を失ったということでしたから、あれほど多種多様なコドモたちが生まれていることを考慮すると、コドモたちはクローン人間であるということも考えられます。
クローン人間は一般にまだ生成されていないとされていますが、クローン動物ではテロメアが短くなっていることが指摘されています。
例えば、世界初の哺乳類クローンである羊のドリーもテロメアが短かったと報告されています。
結局、以上のようにコドモたちの老化現象の原因の根底にはテロメアが短くなっていることがあると考えられます。
ただ「不老不死」が「マグマエネルギー」内のテロメアの伸縮に関する物質や機構によって実現したかもしれないことを考えると、コドモたちの老化現象の根底にあるテロメア短縮も、「マグマエネルギー」に依存するものなのかもしれません。
黄血球が原因?
オトナたちの「不老不死」、そしてそれを実現させたテロメア再生がマグマエネルギーに依存しているならば、マグマエネルギーには何かしらテロメアの伸縮に関係する物質、機構が備わっていることが考えられます。
すなわち、マグマエネルギーによってテロメアを伸ばすことができるのならば、マグマエネルギーによってテロメアが縮むこともまたありえると考えられるのです。
また、以前の考察で述べたように、黄血球もマグマエネルギーによって作られたのではないかと考えられるのです。
よって以上のことから、もし黄血球がマグマエネルギーに由来していて、マグマエネルギーによってテロメアが縮むことがあり得るならば、コドモたちの老化現象は黄血球が原因であると言えるのではないでしょうか。
もしそうだとしたら、対叫竜用につくられたコドモが短命であるという一見不合理な事態も、フランクスを操縦するために必要な黄血球を投与する代償ということになり、一応筋は通ります。
また、そのように「不老不死」や「老化現象」といったテロメアの伸縮が原因にある現象の原因を「マグマエネルギー」という同一の物質に求めると、さらにそこから人類と叫竜とのつながりまで見えてくると考えられます。
叫竜とテロメア
叫竜→マグマエネルギー→人類
「マグマエネルギー」にテロメアの伸縮に関する物質が含まれているのならば、そこからさらに人類と叫竜とのつながりまで見えてきます。
かなり前の考察で、マグマエネルギーはハチミツのイメージで描かれていることを述べました。
そして今回、叫竜の姫が「女王バチのごとき個体」であることが発覚しました。
ここでようやく、「ハチ」という「黄色」のイメージが「青」という「叫竜」のイメージとつながったわけです。
つまり、現実のハチがハチミツを作り出すように、ダリフラでは叫竜がマグマエネルギーを作っているのではないでしょうか?
もしそうだとしたら、人類と叫竜とは、この「マグマエネルギー」を介して関連していることになります。
すなわちここに、叫竜→マグマエネルギー→人類という一連の流れが生まれるわけです。
このことは『ダリフラ』の物語に大きく関連すると考えられます。
不老不死はもともと叫竜のものだった?
叫竜→マグマエネルギー→人類という流れがあるならば、人類は「マグマエネルギー」という叫竜の文明の産物を拝借して、本編のような文明を謳歌しているということになるのかもしれません。
例えば、オトナが実現した「不老不死」はもともと叫竜の産物だったのかもしれません。
前述したようにマグマエネルギーにテロメアの伸縮に関する物質や機構が含まれており、そのマグマエネルギーが叫竜の作ったものならば、叫竜自身がそのマグマエネルギーを備えており、テロメアを再生させて不老不死であったとしても不思議ではありません。
思えば叫竜の姫の外見も、第19話のフランクス博士による回想と第17話の七賢人との対談とでほとんど変わっていないように思えます。
これはもちろん叫竜がテロメアを有する染色体をもった生物だと仮定してのことですが、第19話で叫竜からXX染色体が見つかったこと、フランクス博士の口から叫竜が「有機物とも機械ともとれる」生物であったことを考えると、叫竜がテロメアを有していると考えることに無理はないように思います。
そしてこのように考えると、やはり人類は、「マグマエネルギー」という叫竜の産物を叫竜から奪い取った悪者(叫竜側から見れば)のようであり、ここに人類と叫竜との争いの原因もあると考えられます。
しかしやはり「マグマエネルギー」という物質は都合がよすぎる気もします。
そもそもAPEはどうやってこの「マグマエネルギー」を発見したのでしょう?
それに加え、APEが「女王バチのごとき個体」の居場所をつきとめたことも考えると、どうもAPEと叫竜にはつながりがあるように思えるのですが……
と言っているときりがないですし、長くなってしまったので続きは次回に持ち越したいと思います。
「女王バチ」
今回は『ダリフラ』と「テロメア」について考察しました。
以上のように見ると、『ダリフラ』の科学的背景の根底には「テロメア」があるということが十分に言えるのではないかと思われます。
ただ「テロメア」という発想の元は「染色体」から来たのではないかということも考えられます。
『ダリフラ』の大きなモチーフの一つに「染色体」があるというのは以前の考察でも述べました。
「テロメア」というのは、「染色体」の末端ですから、おそらく制作側の発想としては「染色体」→「テロメア」の順だったのだと思われます。
「染色体」→「テロメア」→不老/老化、「染色体」→「性染色体」→「男女」などと考えると、『ダリフラ』のテーマの大元にあるのは「染色体」だと考えられます。
そのような意味でも、叫竜が「XX染色体」を有していたというのは非常に気になるところです。
それに加え、叫竜の姫が「女王バチ」と喩えられたこともやはり「黄色」のイメージのつながりから大切だと考えられます。
次回はそのあたりをメインに考察したいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
<主要参考文献>
『老化はなぜ進むのか』近藤 洋司 (2009,講談社)
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