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ダリフラED考察<後編>①多人称の<僕>

ダリフラEDの魅力

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ノンクレジットエンディングアニメ 「トリカゴ」より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

<前編>では、一見すると世界観の異なるダリフラEDが、むしろ『ダリフラ』の世界観を象徴していることを導出しました。

<後編>では、一歩踏み込んだ「読み」を披露し、ダリフラEDのさらなる魅力に迫っていきたいと思います。

また<前編>では第1話、第2話で使用されたED『トリカゴ』のことを、とっつきやすさとわかりやすさを鑑みて「ダリフラED」と表記していましたが、タイトルの重要性と製作者の意向、今後のED変化を考慮し、<後編>からは「『トリカゴ』」とタイトルで記載します。

それではさっそく考察していきましょう。

 

 

多人称の〈僕〉

矛盾?

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ノンクレジットエンディングアニメ 「トリカゴ」より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

今一度歌詞に立ち返ります。

「何のため ボクは生きているの? わかんないよ」

「教科書の余白に描いた理想のボクは」

「ボクはどこにいるの?」

(XX:me『トリカゴ』より引用、歌詞 : 杉山勝彦)

ここで(あれ?)と違和感をもった方もいらっしゃるかと思います。

なぜ違和感があるのでしょう。

EDに登場するのは『ダリフラ』のヒロインたちであり、EDを歌っているのも彼女たち女性です。

それにもかかわらず、歌詞の一人称は「<僕>」なのです。

ここに違和感の正体があります。

つまり、EDを歌う登場人物たちは女性なのに、歌詞に用いられているのは<僕>という一般に男性が使うとされている一人称で、矛盾しているように思えるのです。

しかしこの矛盾には、大きな意味があります。

とりわけ、「ボク」*1を一人称とするキャラクターが登場する『ダリフラ』においては。

 

杉山勝彦とアイドルソングの「僕」

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杉山勝彦 放送直前特番より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

<僕>の矛盾を探るために避けて通れないのが杉山勝彦*2の存在です。

杉山勝彦はこのダリフラED『トリカゴ』の作詞作曲を担当されている方です。

以下公式サイト*3からの引用です。

杉山勝彦
(エンディングテーマ作詞・作曲)
TANEBIギタリスト
乃木坂46「制服のマネキン」「君の名は希望」「サヨナラの意味」(作曲)
中島美嘉「一番綺麗な私を」「Dear」(作詞・作曲・編曲)
PROFILE
1982年・埼玉県出身。作詞家、作曲家、編曲家、ミュージシャン、音楽プロデューサー、フォークデュオ「TANEBI」のギタリスト。乃木坂46「サヨナラの意味」でミリオンセラーを記録し、2017年12月には家入レオ「ずっと、ふたり」などにより第59回日本レコード大賞で作曲賞を受賞。

MUSIC | TVアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」公式サイトより引用)

「PROFILE」を見ていただければわかるように、杉山勝彦は『乃木坂46』などのアイドルグループに多くの楽曲を提供しています。

例としては、『乃木坂46』で作曲を手がけるほかに、『欅坂46』、『AKB48』、『SKE48』、『HKT48』で作曲を、『私立恵比寿中学』では作詞作曲を担当されています。 

ここに<僕>の矛盾を解きほぐす手がかりがあります。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、アイドルの楽曲では、しばしば「僕」という一人称が用いられます。

これは主に、男性のファンも楽曲に感情移入しやすくさせるためだとか、歌詞の普遍性を増させるためだなどと言われています。*4

『トリカゴ』の<僕>もこれと同様の使われ方をしていると考えられます。

まず、杉山勝彦が多くのアイドル楽曲の制作に携わっていることから考えて、彼がアイドルソングの「<僕>」を使用しても不思議はありません。

そして現に、自身が作詞を手掛けた『ゆめかなエール』*5踊るガリ勉中学生』*6では「僕」という一人称が用いられています。

以上のことから、『トリカゴ』<僕>には、アイドルソングの「僕」と同様に、男性ファンの感情移入の容易にさせる、あるいは歌詞の普遍性を増させるという効果があると考えられます。

 

杉山勝彦の情熱

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杉山勝彦2 放送直前特番より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

これまでの考察で『トリカゴ』の<僕>にはアイドルソングの「僕」と同じような効果があることを述べましたが、「やっぱり偶然なんじゃないか?」「本当にそんなこと狙っているのか?」と疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれません。

たしかに杉山勝彦が意識的にアイドルソングの「僕」を用いたかと言われれば、それは本人に聞いてみないとわからないと言いたくもなります。

しかしこと杉山勝彦に限っては、意識的に歌詞の一人称を<僕>にしたということは確かではないでしょか。

その理由として、杉山勝彦の楽曲に対する姿勢が挙げられます。

インタビューでも彼は「さまざまな要素を分析し、今求められている曲に対して自分の色をどのように落とし込んでいくか、ということを考えて」*7いると語っています。

「さまざまな要素」とは例えば、

「曲を提供するアーティストが、今はキャリアの中でどのフェーズにいて、次にどこを目指そうとしているのか、という戦略、音楽史全体の中で、今はどういう流れにあって、次はおそらくこうなるだろう、というビジョン、タイアップの楽曲であれば、スポンサーの狙いやそのアーティストと接点を持った理由など」*8

だそうです。 

これほど楽曲づくりに情熱をもった杉山勝彦が無意識に、考えなしに<僕>を用いたとは到底考えられません。

『ダーリン・イン・ザ・フランキス』でも、放送直前特番*9において「熱量がハンパないので」とスタッフの情熱に敬意を表するとともに、「そういう曲(アニソンの枠を超えた一流のアイドルポップス)じゃないとダーリン・イン・ザ・フランキスのエンディングには使えないと思うんですよね」と意気込みを述べています。

このようなことから考えてみても、杉山勝彦の『トリカゴ』にかける情熱は生半可なものではなく、彼はしっかりとした狙いをもって<僕>を歌詞に盛り込んだと言えるでしょう。

 

<僕>と「ボク」

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第1話「独りとヒトリ」より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

少し寄り道をしてしまいましたが本筋に戻りましょう。

『トリカゴ』の<僕>にはアイドルソングの「僕」と同じような効果がありました。

しかし<僕>に込められた意味はこれだけではありません。

そこで思い出されるのがゼロツーの存在です。

『トリカゴ』の歌詞の<僕>と同様に、ゼロツーの一人称も「ボク」です。

ここから、『トリカゴ』で<僕>を用いたのは、『トリカゴ』の歌詞の主体である生徒(=<僕>)とゼロツーとを重ねるためだと考えることができます。

それでは『トリカゴ』の<僕>ゼロツーは何が重なっているのでしょうか、あるいは本当に重なっていると言えるのでしょうか。

これを以下で検証します。

 

『トリカゴ』から「読む」ゼロツーの「葛藤」

確認しておくと、『トリカゴ』の<僕>は、<前編>で見たように、「学校」というある種の檻に閉じ込められ、大人たちに支配・管理されて「自由」を制限されていることで「葛藤」を抱えていました

そしてこの<僕>とゼロツーとが重なるということは、つまり、ゼロツーも『トリカゴ』の<僕>と同じような「葛藤」を抱えているのではないか、と考えられるということです。

今度はED映像に注目しましょう。

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ノンクレジットエンディングアニメ 「トリカゴ」より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

サビ前、クレーンの尖端に立ち、うつむいたゼロツーが前を向いたと思ったら、カラスたちが飛び立つのと同時にクレーンの尖端から消えます。

これはゼロツーもカラスたちと同様に「飛び立った」ということを表現していると考えられます。

そして次の場面ではゼロツーが走り出します。

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ノンクレジットエンディングアニメ 「トリカゴ」より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

時折『ダリフラ』のモチーフである「X」のロゴが織り込まれながら、ゼロツーは一心不乱に走り続けます

表情はよく読み取れませんが、何かから逃れるように全力疾走しています

これは大人たちの支配・管理から逃れるように、全力でもがき、あがく姿だと解釈できます

また本編を一瞥してみても、ゼロツーが大人たちに支配・管理されているのではないかと推測することはできます。

もっともゼロツーはイチゴやミク、イクノ、ココロたちヒロインのようにミストルティンに閉じ込められているわけではありません。

2話までしか放映されていない現在では手掛かりが少ないですが、厳重な警備とともに「セラスス」に降り立ったことや逃げ出してすぐに護衛に追われることから考えて、より大きな機関・組織にある意味で「囚われている」のは確かでしょう。*10

以上のことから、ゼロツーもED『トリカゴ』の<僕>と同様に、支配・管理から逃れ、「自由」になろうともがいていると言えるのではないでしょうか。

したがって、『トリカゴ』で<僕>を用いたのは、『トリカゴ』の歌詞の主体である生徒(=<僕>)とゼロツーとを重ねるためだと考えられます。

 

ゼロツーのさらなる「葛藤」

さて、これまでの考察で、『トリカゴ』の<僕>には、アイドルソングにおける「僕」の効果とゼロツーの「葛藤」とを重ねる効果があることを述べてきました。

これで『トリカゴ』における<僕>の矛盾は解消されたと思います。

しかしながら、「ボク」の「葛藤」についてはまだ解消しきれていません。

つまり、ゼロツーは、大人たちに支配・管理による「自由」への渇望という心の「葛藤」以外にも、まだほかの「葛藤」を抱えていると考えられるのです

このことのヒントになるのが「X」です。

もう一度ED映像を見ましょう。

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ノンクレジットエンディングアニメ 「トリカゴ」より ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

ED映像では、ゼロツーが全力疾走する合間合間に、「X」のロゴがフラッシュのように挿入されています。

ところでゼロツーは第一話で、「叫竜の血をひく少女よ」と言われているように人間と叫竜の混血だと考えられます。

人間による遺伝子操作か、はたまた叫竜と人間が自然に交配して生まれたのか、ゼロツーの誕生については本編が進まないと確定的なことは言えませんが、そこにはダリフラのテーマ・主題が関わってくるでしょう。

「X」は、叫竜と人類の混血のゼロツーや男女カップルでないと操縦できないフランクスなどを象徴する「染色体」をモチーフにつくられたロゴだと考えられます。

したがって、ED映像の「X」の挿入は、ゼロツーは自身が混血であることによっても「葛藤」を抱えていることの示唆だと考えられます。

そしてこの混血による「葛藤」を抱えた結果生まれた一人称が「ボク」なのではないでしょうか。

ゼロツーの身体はたしかに人間の女性の身体ですが、心はどうなのでしょうか。

そもそも叫竜に性別があるのかどうかは不明ですが、ゼロツーがより複雑な精神を備えているのはたしかでしょう。

現に第一話でも「ボクもいつもヒトリだよ、この角のせいでね」と「葛藤」の一端をあらわにしています。

ゼロツーの「ボク」には様々な可能性が読み取れるのです。

 

 

 まだ語りつくせない……

今回は「多人称の<僕>」ということで<僕>を中心に考察しました。

まとめると、<僕>にはアイドルソングの「僕」の効果や、ゼロツーが<僕>と同様の「葛藤」を抱えていることの示唆になっていると言えるでしょう。

さらに<僕>「ボク」へとつながり、「ボク」にはゼロツーのさらなる「葛藤」が垣間見られるということでした。

『トリカゴ』の<僕>からはこのような考えが展開できるのだと、そのおもしろさを味わっていただければ筆者としては幸いです。

しかし『トリカゴ』の魅力はまだ語り尽くせません。

今回はゼロツーを中心にその「葛藤」を考察しましたが、ED映像には他にもイチゴやミク、イクノ、ココロといった主要ヒロインが描かれています。

次回はそんな主要ヒロインも含めた『ダリフラ』世界全体の「葛藤」を「比翼の鳥」というテーマから探っていきたいと思います。

 

当初は一つの記事でまとまるかなと思った考察も、前後編にわかれ、さらにはそれぞれ個別の章立てにまでなってしまいました。

『トリカゴ』がここまで成長するとは筆者も予想だにしていなかったのですが、語れる限り語り尽くしたいと考えております。

最後までどうぞお付き合いいただきたいです。

それではまた次の章でお会いしましょう。

 

<ダリフラ考察まとめはこちら↓>

*1:公式キービジュアル第3弾、および、ジャンプ+で連載中の漫画版『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(漫画/矢吹健太朗 原作/Code:000)([1話]ダーリン・イン・ザ・フランキス - 漫画/矢吹健太朗 原作/Code:000 | 少年ジャンプ+)の表記を参照

*2:敬称略

以下同様に敬称略

*3:MUSIC | TVアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」公式サイト

*4:なぜ女性歌手は「僕」について歌うのか 〜アイドル・ソングの中の男女について – TAKAYA OHTA – Medium

女性アイドルソングにおける“僕”を読む - KKBOX 等参照

*5:歌:リーフシトロン 作詞作曲:杉山勝彦

*6:歌:私立恵比寿中学 作詞作曲編曲:杉山勝彦

*7:「音人工房」 杉山 勝彦より引用

*8:前掲サイト引用

*9:TVアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」放送直前特番 - YouTube

ED紹介と杉山勝彦へのインタビューは20:41頃~

*10:KEYWORD | TVアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」公式サイト参照